リアルな地獄の夢に、まどろみ破れた無類の悪党

4月 11, 2011 - 4:05 pm コメントは受け付けていません。

 親鸞会で、蓮如上人のお弟子になった武士の話を聞いてきました。

 蓮如上人が吉崎御坊(福井県)を拠点に、北陸各地の布教へと精力的に
歩いておられた時のこと。

 隣の加賀国能美郡(石川県小松市)に、多田孫左衛門という武士が
いました。常に野山を駆け回り、狩猟に明け暮れ、少しも仏法を尊ぶ心が
ありません。

「死んだ後なんてあるか。この世さえ楽しければいいだろう。
 坊主たちは、死後の極楽を売り物にして金もうけしてやがる。許せん」
 好き放題、暴言を吐き、心中深く、吉崎御坊の繁盛をねたんで、
上人に危害を加えようとさえ企てていた始末。

 そんなある日、溺愛していた一人娘が、病に倒れてしまいます。
次第に重症となり、高熱にうなされて最後、「お父さん、お母さん、
私をいとおしんでくださるなら、冥土へ一緒に来てぇ。ああ、火の車が
来る!怖い、怖い」と悶え苦しむうちに、息を引き取ったのです。

 享年16歳。涙乾かぬその日、床についた孫左衛門は、夢を見ました。
 庭の木陰にたちまち黒雲わき上がり、紅蓮の炎に包まれた火車が
現れたではありませんか。
 牛頭馬頭の怪物たちが、金棒や刀を振りかざし、孫左衛門を
責め立てます。

「耳を澄まして、よーく聞くがよい。お前は、仏法をそしり、鳥獣の命を
奪って、他人をののしる無類の悪党だ。地獄から連れにきたぞ」
 恐れわななく孫左衛門は、詫びようとしても声が出ません。
 逃げようにも道がなく、全身がみるみる炎に焦がされ、苦しみあえぐ
最中に、目が覚めました。

 たとえようのない恐ろしさに、とても夢とは思えません。
「娘が言い残した火車とは、このことか。死んだ後は無になるどころでは
ない、臨終には、必ず火車が現れる。地獄なんてまっぴらだ」

 早速、真剣に救いの道を求めます。
 しかし、真っ暗な魂を解決してくださる教えを説かれるのは、これまで
非難してきた蓮如上人しかおられません。

 恐る恐る吉崎へ向かうと、上人は、温かく迎えてくださいました。
「多くの生き物の命を奪い、罪悪を犯し続ける我々は、一息切れたら、
必ず、地獄に堕ちて苦しまなければならないと教えられます。火車は、
自分で生み出したもの、避けることはできぬ。しかし、阿弥陀仏は、
どんな人をも、必ず救うと誓っておられる。この世は絶対の幸福に
生かされ、死後は弥陀の浄土に往生させていただけるのだ。今より後は、
一心一向に阿弥陀仏を信じなさい」

 法の尊さに打たれた孫左衛門は、歓喜の涙を流し、すぐにもとどり
切って、上人のお弟子となり、名を兼秀と改めています。

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